東京地方裁判所 昭和59年(ワ)5543号 判決
一 原告が本件特許権を有すること及び本件明細書の特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
右争いのない特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一号証(本件公報)とを合わせ考えれば、本件発明は原告主張の構成要件AないしEからなるものであることが認められ、なお、この点は被告もこれを争わない。
二 被告が被告装置を輸入し、譲渡していることは、当事者間に争いがない。
三 そこで、本件発明と被告装置とを対比する。
1 まず、被告装置は、粒体被覆機であるから、本件発明の構成要件Eを充足することが明らかである。
2 次に、被告装置が本件発明の構成要件A、すなわち、「横型ドラム状回転容器の周壁数個所を適当な広さの多孔板で形成すること」の要件を充足するか否かについて検討する。
(一) 前記争いのない特許請求の範囲の記載に照らせば、本件発明の構成要件Aが専ら「多孔板」に関する構成について規定しており、右構成要件にいう「数個所」の語句が「多孔板」にかかるものであることは、文理上明白である。
(二) また、前掲甲第一号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の欄においては、従来技術として、「コーテング回転容器全体を多孔板で形成し」たものが掲げられ(本件公報第一欄二九、三〇行目)、その欠点として、所期の機能上「その容器の外側にもう一つの固定容器を設けねばならない」ので、「コーテングを完了した粒体を迅速に取出すために多孔板容器と固定容器との両方に取出口を設けねばならない」などの点があるとされ(同第一欄三七行目ないし第二欄一一行目)、次いで、「この発明はこのような従来のコーテング容器の欠点を解消するために」特許請求の範囲記載のような特徴を有する構成を採用した旨が記載されていること(同第二欄一六ないし二三行目)が認められる。そして、右に従来技術の欠点として指摘されている「多孔板容器と固定容器との両方に(粒体の)取出口を設けねばならない」との点については、回転容器の周壁全面を固定容器ではなく、回転容器と一体をなすダクトで被覆した装置の場合にも、同様のことがあてはまることはいうまでもない。したがつて、本件発明はこのような欠点のない構成のものでなければならず、現に、前掲甲第一号証によれば、本件発明の実施例を示す図面には、回転容器の周壁のうち多孔板部分以外の、ダクトの設けられていない部分に粒体の取出口13を設けた構成が示されていることが認められるのである。
(三) 更に、前掲甲第一号証によれば、前記発明の詳細な説明の欄には、本件発明の作用効果につき、「容器内には乾燥空気の無用な通風による溶剤の固化現象を生じる部分がほとんどなくなつたから粒体の仕上げコーテングの場合に、コーテング表面にキズを与えるおそれを少なくすることができて、完成品中に不良品が混入する率を少なくすることができたのである。との記載(本件公報第三欄四一行目ないし第四欄六行目)、回転容器全面を多孔板で形成したものと本件発明にかかる装置との、粒体への糖衣、色掛(仕上げ)工程における不良品(キズ)発生率に関する比較表(同第四欄一二ないし一六行目)及びこれに続く「これは回転容器全面が多孔板の場合、乾燥気流は容器全面から流通し、それが多孔板の孔周辺に付着の溶剤の乾燥固化現象を促進し、容器内面全面に突起物を形成する結果にあ(な)るのであつて、その容器に収容され回転攪拌される錠剤がその突起物に当たつてキズつき、あるいは欠けるなどして不良品となつていたのである。との記載(同第四欄一九ないし二五行目)があることが認められる。そして、回転容器全面が多孔板で形成されたものである限り、回転容器の外側を覆うものが固定容器であるか、回転容器と一体をなすダクトであるかにかかわらず、乾燥空気は回転容器全面の多孔部を通つて流通するから、右に認定した不良品(キズ)発生の機序に関する記述部分は、回転容器全面をダクトで覆つた装置の場合にもそのままあてはまることになる。
以上(一)ないし(三)で説示した点を合わせ考えれば、本件発明の構成要件Aは、回転容器の周壁の複数個所を部分的に多孔板で形成するという構成に限られ、回転容器の周壁全面を多孔板で形成したものは含まないと認めるのが自然かつ合理的であるというべきである。もつとも、前掲甲第一号証によれば、本件明細書の発明の詳細な説明の欄の末尾には、「以上は本発明の一実施例であるが、」との記載(本件公報第四欄二六行目)があることが認められるけれども、これに続く部分には、単に、錠剤の種類に応じて任意の気流を用いることや気流の流通方向を逆行させることなどが本件発明の精神に包含される旨が記載されているにすぎないから、右の一実施例云々の記載は何ら先の認定を左右するものではないし、本件明細書を仔細に検討してみても、ほかに本件発明が回転容器の周壁全面を多孔板で形成したものまで包含しうることを示唆するような記載は全く見出しえない。
これに対し、被告装置の構造を示すものとして当事者間に争いのない別紙物件目録の記載によれば、被告装置は、横型ドラム状回転容器1がその全周壁に分布した多数の細孔2をもつた構造であること、換言すれば、回転容器1の周壁全面が多孔板で形成されたものであることが明らかである。したがつて、被告装置は本件発明の構成要件Aを充足しないといわなければならない。
ところで、原告は、前記特許請求の範囲における「数個所」の語句は「多孔板」ではなく「吸引ダクト」にかかるものであり、本件発明は回転容器の周壁全面が多孔板で形成されたものをも含むものとする旨を主張し、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第二二号証及び第二五号証によれば原告の右主張に沿う見解もあることは認められる。しかしながら、これらの見解は錠剤コーテング装置の基本的な構造の変遷又はその機能に着目して本件発明を位置づけようとしているものであつて、本件明細書の記載するところに添つて本件発明の権利範囲を解釈しようとするものとはいえず、当裁判所としてはこれらの見解を採用することはできない。また、ほかに原告の右主張を裏付ける的確な資料、証拠もない。
3 そうすると、被告装置は、本件発明の構成要件Aを充足しないから、この点において既に本件発明の技術的範囲に属しないことになる。
四 以上の次第で、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註〕 本件発明の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。
「横型ドラム状回転容器の周壁数個所を適当な広さの多孔板で形成し、その各多孔板部分を容器外周面から吸引ダクトで被覆し、そのダクトの外端を容器後面の固定排気管に容器の回転で特定の位置に回転して来たときに流通するようにし、容器前面の開口部に送風管口を臨ませたことを特徴とする粒体被覆機。」